『3階の見知らぬ男』殺人現場は2度も目撃してはならない

『3階の見知らぬ男』
Stranger on The Third Floor
1940年、アメリカ、ボリス・イングスター監督

あるタクシー運転手が殺人容疑として逮捕された。その事件を事件現場の食堂で目撃した記者のマイケル(ジョン・マクガイア)は裁判で証言をし、まもなく有罪が確定する。だが、婚約者のジェーン(マーガレット・タリシェ)に見間違えたのではないかと指摘され、真実をつきとめるよう説得されたことで、証言したことを後悔することになる。

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ある晩、自宅の外で白いスカーフを巻いた不気味な男を見かけたマイケルは、階段を降りて追いかけて正面玄関から追い出す。その晩、マイケルは悪夢にうなされ、隣人で普段から仲のよくない男が先ほどの男に殺されたのでは、と思うようになる。実際に隣の部屋に入ると、確かに殺害されていた……。

『3階の見知らぬ男』はしばしば「最初の真のフィルムノワール」として語られることのある作品で、1941年の『マルタの鷹』に先立つ先駆的な作品であるとされる。たしかに視界も明瞭でない夜の暗い場面が多く、名前を持たない「見知らぬ男」として登場するピーター・ローレが醸し出す、現実を侵食するような悪夢的な雰囲気はフィルムノワールの作品の数々を先取りするような要素も感じられる。同時にマイケルが見る悪夢は表現主義的な雰囲気を感じさせる。

また、映画ではマイケルは2度目に目撃した殺人が自分が証言した食堂での殺人事件と同じ殺害方法であることに気がつき、警察に同一犯の犯行に違いないと告げたことにより自分自身が犯人であると疑われてしまうのだが、主人公がしだいにのっぴきならない窮地に陥る展開も閉塞感を感じさせるのも、フィルムノワール的であるといえそうだ。物語のなかでもっともおもしろいのも、この2度も「たまたま」目撃者となってしまう、という状況から起こる展開である。

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とはいえ、ピーター・ローレが演じる男は神経症的なところのある異常者(というより精神的に問題ありな人物)のようにも見えるので、恐怖映画(ニューロティック・ホラー)としての要素を強調して見るならば、同年の『レベッカ』との共通点も見いだすことができるだろう。

監督のボリス・イングスターは1903年にロシアに生まれ、この『3階の見知らぬ男』が監督デビュー作である。その後、いくつか監督やプロデューサーとして映画作りに携わり、2015年に『コードネーム U.N.C.L.E.』としてリメイクされたテレビドラマ『0011ナポレオン・ソロ』にもプロデューサーとして参加している。

ちなみにマイケルの婚約者であるジェーンを演じたマーガレット・タリシェはウィリアム・ワイラーの妻として有名で、俳優としての代表作はこの作品になるだろうか。

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