『トランス・フューチャー』タイムトラベルと因果ループ

『トランス・フューチャー』
2020年、ブルーノ・ビニ監督

過去に戻ったタイムトラベラーが、自分を出産する前の母親を殺害する。そのとき、タイムトラベラーは生まれ得ないはずであり、どのようなことが起こるのだろうか。これは、いわゆるタイムパラドックスと呼ばれるものだが、ことフィクションにおいては、この矛盾を解消するための方法はおよそ2つに分類される。

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一つは、過去に戻るたびに新たな世界、つまりパラレルワールドが生まれている、というもの。これはいわゆる「ループもの」には好都合な設定であり、話題になった『ハッピー・デス・デイ』もこのパターンであった(続編の『ハッピー・デス・デイ 2U』であっさり明かされる)。

二つは、未来の時点から過去に戻った者が何かしらの行動を起こすという、その事実じたいがすでに過去の歴史として記録されている、というもの。たとえば、現在から20年前に戻って、子どもの頃の自分に会いに行くと、そのときのことは子どもだった自分が経験したことだった……。これは叙述トリックと相性がよく、過去のある時点で実は未来からやってきた者による行為の痕跡があったと事後的に気づかせることができる。あのとき、かつて知らない大人が不可解なことを言っていたことがあったが、あれは未来の自分だったのだ……という風に。あわてて昔のアルバムを開いてみると、子どもの頃の自分の隣に現在の自分が並んで写真に写っていた……という展開も(実際にどの作品かは思い出せないが)いかにもありそうである。

「ループ」という原題があまりにストレートな『トランス・フューチャー』は、この2つ目の典型的な一例だと言えるだろう。ループといっても、繰り返される反復世界が描く「ループもの」というよりは、因果関係がすべて繋がるというメビウスの輪に例えられるような「因果ループ」のフィクションと分類されるだろう。

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主人公は、物理学者の卵らしきダニエルという男。ビルの屋上で突如、何者かに襲われたダニエルは、意識が朦朧としながら倒れるが、その傍らには変わり果てた恋人の姿がある。ダニエルを襲った男は「今度はもっと急げ」と謎の言葉を告げるとビルから飛び降りる……。恋人を失い、自暴自棄となったダニエルは自ら命を絶とうとするが、警察の聴取から、犯人が告げたあの言葉が過去の複数の未解決殺人事件に関連していることを知る。被害者の一人に自身の父であることもわかり、ダニエルは犯人探しと彼女を救うために、研究していたタイムトラベルで過去に戻る。何度もタイムトラベルを繰り返すうちに、驚きべき真実を知る……。

冒頭、何やら不可思議な状況が起こり、その後に警察の取り調べを受けているという流れは、古典的なフィルム・ノワールの趣もある。ダニエルは探偵的な役割で、過去に起こった事件を探っていくことになる。恋愛絡みで過去に何度も戻るとロクなことにならない、というのは約束事のようなものとなっているが、その点では『プロジェクト・アルマナック』とも似ているし、物語の骨格はロバート・A・ハインラインの「輪廻の蛇」を原作とする『プリデスティネーション』を想起させると言うとネタバレになってしまうわけだが、基本的には90分ほどでうまくまとめたSFサスペンスという趣の作品である。

プロットも複雑なことはなく、気楽に楽しめる作品であるのだが、やはりタイムトラベルが可能であるということや、主人公の顔がまったくの別人に変わってしまうこと、主人公の姉が弟の行動に理解がありすぎることなど、ご都合主義と言われても仕方がないような気もするが、肩肘張って見るべきものでもないだろう。

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