『E.T.』
E.T. THE EXTRA-TERRESTRIAL
1982年、アメリカ、スティーヴン・スピルバーグ監督
この物語は、とある森に光を放つ宇宙船が着地したところから始まる。
エリオット少年は一人だけ取り残されてしまった宇宙人と出会うも、大人には知らせず、彼をE.T.(イーティー)と名づけて友達になる。政府機関が突然の訪問者を探すなか、エリオットはもとの宇宙に返そうとする。宇宙船がなぜ地球を訪れたのかははっきりとは明かされないが、どうやら彼らは地球の植物を採取するためにやって来たようだ。
映画の舞台となる場所は具体的に設定されていないようだが、ロケ地はロサンゼルス郊外らしい。子どものために作られた映画として難解なところもなく、完成度の高いジュブナイルファンタジーである。映画の冒頭、エリオットは兄の友人たちとボードゲームをしているのだが、一人だけ幼いということで仲間外れにされてピザを買いに行かされる。このちょっとした疎外感は共感する観客も多いだろう。そして、エリオットの父親は愛人とメキシコに行ってしまい、母親と兄妹(この妹を演じるのは、若き日のドリュー・バリモア)と暮らしており、こうした寂しさも共感たっぷりに描かれている。この父親の不在というのは、エリオット少年の成長が描かれていくなかで重要な要素として強調されている。
エリオットの成長を示す最初の局面は、ビール缶を片手に『静かなる男』(1952年)をテレビで見ていたE.T.と意識をシンクロさせたエリオットが、画面の中のジョン・ウェインよろしく同級生にキスする場面である。ここでは理科の授業で解剖に使われるカエルを教室に解き放ったりと、物静かだったエリオットが大胆な言動を起こして変化を見せる。だが、ここでは彼自身から生じた行動というよりも、摂取したアルコールを借りたうえでの行動であったというべきかもしれない。
エリオットの成長を示すもっとも重要な場面は、死んだと思われたE.T.が息を吹き返すクライマックスだ。ここでなぜE.T.が蘇生したのかといえば、それはエリオットが通過儀礼を果たしたからである。これまで父の不在を素直に受け入れずにできなかったエリオットはE.T.の死を認めることで、大人へと近づいたのだといえる。E.T.を宇宙へと帰すということに全面的には首肯できていなかったエリオットが、心から家へ送り返すということを決断するのも、この瞬間である。別れの場面で言葉を贈るE.T.はもはやエリオットの父親のようですらあり、E.T.を通じてエリオットは大人になるための最後のメッセージを受け取ることになるのだ。そしてエリオットとともに家族も変化していくこともこの映画を感動的にしている大事な要素だ。父の不在をしだいに家族は受け入れていくのである(だが、中盤から科学者のなかに父親然とした人物が登場するが、映画を見る限りでは彼が誰なのかは明瞭ではない)。
終盤のE.T.を送還するために自転車で爆走する子どもたちの姿は、のちの『ストレンジャー・シングス』を先取りするような胸踊る感じもあり、この映画が後世の数々の作品に影響を与えたことは改めて語るまでもないだろう。また、父親の存在はスピルバーグ作品のなかでも重要な要素として変奏されていくことになる。
ちなみに、E.T.とエリオットが37年ぶりに再会したという設定のショートムービー「A Holiday Reunion」が公開されたことも話題になった。そして完全に蛇足でしかないのだが、2019年10月にエリオット少年を演じた俳優のヘンリー・トーマスは酒気帯び運転の疑いでオレゴン州警察に逮捕されている(悲しい)。
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