『大統領の陰謀』
All the President’s Men
アメリカ、1976年、アラン・J・パクラ監督
1976年に公開され、第49回アカデミー賞で4部門で受賞に輝いた『大統領の陰謀』。ウォーターゲート事件の真相を追う二人の記者を主人公とする本作のバディムービーとしての魅力を解き明かしていく。
『大統領の陰謀』とは?
『大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日』を原作としており、劇中に登場するのも実在の人物である。あらすじとしては、ニクソンを辞任に追い込むことになるウォーターゲート事件を辿るものであるため、細かい人物名が多数登場するとしても、史実を理解しておけばそこまで混乱することもないだろう。映画の冒頭、ウォーターゲートビル内のドアに奇妙なテープが貼られていることを発見した警備員を演じているのは、フランク・ウィルズ本人だという。
こうした史実を描く映画に本人が登場する例としては、クリント・イーストウッドの『15時17分、パリ行き』(2018年)で大胆に導入されたが、ほかにもアメリカ同時多発テロを“再現”するポール・グリーングラス『ユナイテッド93』(2006年)でも試みとして行われている。
正義の名の下で戦う記者たち
新聞記者たちが強大な権力に立ち向かい、正義の名の下で真実を告発する、という映画としてはトム・マッカーシーの『スポットライト 世紀のスクープ』(2015年)、ロブ・ライナーの『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2017)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)とアメリカ映画の一ジャンルともなっている感もあるが、こうした作品では多くの日本人にとって、扱われる事件がどういうものであるかが重要になってくる。『スポットライト 世紀のスクープ』では、カトリック司祭による性的虐待事件の告発が描かれたが、これがショッキングであるかは日本人にとって感覚として共感しづらいのはいたしかたないという気がする。
バディムービーとしての魅力
そのなかでも『大統領の陰謀』はバディムービーとしての魅力にも溢れていることが救いである。事件を担当するカール・バーンスタインとボブ・ウッドワードを演じるのは、ロバート・レッドフォードとダスティン・ホフマン。バディムービーにあるように、どちらかが行動的だが気が短く、一方は慎重だが決断力を欠く、といったような明確なキャラクターとして設定されているわけではないのだが、もともと二人が持っている役者としてのポテンシャルでバディとしての魅力を保証している、という感じだ。
ジャンルとして、しばしば人種の違いが強調されるバディムービーであるが、『大統領の陰謀』ではそこまで強くコントラストがあるわけではない。だが、『追憶』(1973年)でユダヤ系のバーブラ・ストライサンドと対比的に映ったように、この映画でも美貌を誇るレッドフォードがWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)であり、ホフマンはユダヤ系であることも表れてはいる(そもそものバーンスタインという名前からしてもユダヤ系であることはわかるわけだが)。
何よりもバディとしての関係性を視覚的に示しているのは、シャツの色である。仕事ばかりしているレッドフォードとホフマンだが、劇中で身につけているシャツは対照的なものになっている。ホフマンが白いものを着ていれば、レッドフォードは青系のものやストライプが入ったシャツを着ていたり、といった具合に。二人は事件を追う記者として両輪となって動く(そのエンジンは彼らを陰で支え背中を押す編集主幹のジェイソン・ロバーズだろう)なかで、性格などのコントラストが強調されるわけではないのだが、こうしたさりげない演出が全体に効果をもたらしているのだ。
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